(オーストリア)
(今すぐ乗りたい世界名列車の旅より抜粋)
映画「サウンド・オブ・ミュージック」が好きだ。1965年の制作だから今から40年以上も前の映画だが、これまで、何度観ただろう。 何回観ても新たな感動を与えてくれる名画中の名画である。 映画のおもな舞台はオーストリアのザルツブルグだが、冒頭のアルプスの山中の大草原で、マリアが歌う感動的なシーンは 郊外のザルツカンマ-グートで撮影された。そこには登山鉄道が走ってる。わずかな時間だが映画にも登場している。 マリアと七人の子供たちがピクニックに行くときに乗った蒸気機関車である。 私もぜひ乗ってみたい。けれども四十年以上も前の機関車が今も走っているだろうか。 少なからず不安を抱きつつ私はザルツブルグ駅に降り立ったのである。 マリアたちが乗ったのは「シャーフベルク鉄道」。その始発駅ザンクト・ヴォルフガングまではザルツブルグから路線バスと連絡船とでおよそ二時間。 ザルツカンマーグートはアルプスの峰に囲まれた高原で、大小七十六もの氷河湖が点在する。 湖は連絡船で横断したほうが速いというわけだ。 その船の甲板で私の目は対岸にそびえるシャーフベルク山(1783メートル)に釘付けとなった。なぜなら、その稜線を山頂目ざして登る、 あたかも模型のように小さな列車を見つけたからだ。しかも一条の煙が立ちのぼる。 遠くて判然としないが、おそらく蒸気機関車の煙であろう。 予想は的中、蒸気機関車は健在だった。客車の後部にその機関車が連結されるとシャーフベルク鉄道は ザンクト・ヴォルフガング駅を勢いよくスタートした。 機関車が先頭ではなく後部から推進するのは、万が一、連結器が外れた場合を考慮した安全対策。登山鉄道のセオリーなのである。 走るにつれ樹木はなくなり見晴らしのいい草原が広がった。森林限界を超えたのである。その草原からマリアと子供たちの歌声が 聞こえてくるような気がする。事実、映画のロケ地はこの付近なのである。 ザンクト・ヴォルフ駅を発車して四十分、列車はついにシャーフベルク山頂駅に到着した。眼下にはモント湖が紺碧の湖水をたたえている。 湖畔にたたずむモントゼー教会はマリアとトラップ大佐とが結婚式を挙げた教会である。 私は思わず、エーデルワイスを口ずさんでいた。 |